2009年3月19日木曜日

ブレーキのお話

昨日はブレーキの鳴き調整をしていました。

コロパパさんのブログ上で、ブレーキダストについて触れられていましたが、少なくとも現状ではブレーキの効きとブレーキダスト・ローターの削れなどは利害得失の関係にあり、どうしようもない部分ではあります。
効きを良くしようと思えばブレーキパッドの摩擦係数を上げ、運動エネルギーの熱への変換効率を上げて速やかに熱エネルギーに変換されてもらうほかありません。つまり効きのよいブレーキとは摩擦係数の高いブレーキパッドの事であり、摩擦係数が高いということはパッドの磨耗と同時にブレーキローターもよく削れ、また、よく削れているという事はパッドによるローターの引きずりも多い、ということになります。つまり音(よく言われるキーキー音や、ブレーキの効き始めに出る「ゴリッ」という音)やジャダー(ローターの削れ方の不均衡によりローターが波を打ってしまい、ブレーキパットのローターへの当たり方に周期的な波が出てしまう現象。この振動がハンドルにキックバックされてハンドルそのものがガタガタ振れる事もある。)の原因にもなっているわけです。

また日本のようにブレーキの使用頻度が高い地域でこのようなパッドを使うとブレーキダストが出すぎてしまいガードレールが真っ黒(赤)になる、ということもあります。
例えば駅のホームなどで電車の来ていないときにレール近辺を見てもらうとわかりますが、大概赤茶けて汚れています。あれはブレーキローターとパッドの削りカスです。一度遠鉄の赤電八幡駅から100メートルくらいの家の人にマークⅡを納め、2ヶ月くらい後にボディコーティングを依頼されたことがあります。色は白でしたが、すでにうっすらとクルマが赤茶けていました。原因は電車。ブレーキローターが削られ、その粉塵は周囲に撒き散らされるのです。鉄粉が舞うだけならいいのですが、それ以上にボディ表面に刺さります。で、その刺さった鉄粉は自然の掟にしたがい赤茶けた酸化鉄になるのですが、刺さった部分はけっこう深い所までいっているので、そういうところにまでさびが浸入してしまうという事があります。あの時は「(鉄粉取が)大変だった」、とコーティング屋に言われました。

平成5年ごろのことだったかと思います。
それまでのブレーキパッドの材質といえばアスベストが主流でした。俗に言う石綿です。ただ、あの頃からアスベストの発がん性が声高に警告されるようになり、ブレーキパッドも次の材質探しに躍起になり、現在のメタル系パッドに替わっていきました。ただ、あの頃は材質がメタル系になった、というだけでしたので、ブレーキ音に関するクレームが異常に多かったのを憶えています。それこそ対策品が矢継ぎ早に出てきて、ブレーキ音のクレームが出るたびにドンドン交換していきました。
別にここでディーラーを褒めるつもりは毛頭無いのですが、そこはそれ、メーカー直系のお店ではありますので、こういう初期クレームや経過観察中の構造・材質に関する対応は早かったし、特にこういう対応でお客さんからお金を取ることはありませんでした。その辺はさすがトヨタ、クレーム対応に抜かりなしと思っちゃいますね。

と、ここまでが19日に書いていたこと。今日はその続きです。

これを書きながら思っていたのですが、最近のホイール及びタイヤの大径化って、この辺の事情が影響しているのかな?とふと思いました。
例えばブレーキの種類としては大まかに2つあって、1つがドラムブレーキであり、もう1つがディスクブレーキなのですが、ブレーキの効きという事でいうとドラムブレーキの方が効きはいいのです。これホント。フェラーリがかなり近年までディスクブレーキに固執したのはエンツォフェラーリの「ブレーキというのは効いてナンボ」というポリシーが大きかったと聞きます。ではなぜ現在ではディスクブレーキが主流なのかというと、パッドにかける圧力とそこから得られる制動力の関係が直線的な為、ブレーキペダルにかける踏力での制動力の制御がしやすい、という理由によります。もちろんローターが露出している為、導風による冷却が容易でフェードを防ぎやすいという理由もあるでしょうが、第一の理由はそれなんだとか。効きよりも優先されるものがあるということですね。では効きが犠牲にされているかというとそうではなく、制動性はパッドの材質やキャリパーの設計等でカバーできる要素であると判断されたわけです。
ではなぜそれがタイヤの大径化の話になるのか。基本的にタイヤの大径化の理由は「より大きなブレーキローターをホイールの内側に納められる、ということにあります。冷却やメンテナンス性を犠牲に出来るのならばセンターローターと言ってボディの中央部にブレーキローターをもってくる方式(確かオリジナルのハマーはこれだったかと思います)もいいのでしょうが、やはり安全面を最優先すればブレーキの耐フェード性を大きくとれるアウターローター方式となるのでしょう。
ここで最初の話に戻ります。音と効きの話です。ローターを大きくできれば、それだけローターの外形ギリギリの所を制動面として使えます。こうすればブレーキの効きを確保しつつ(回転半径が大きい方がブレーキの効きがよくなる)でもパッドにかける圧力は抑えることが出来るじゃん、ということ。つまり効きの良いブレーキパッド(つまりは良く引っ掛かる摩擦係数の高いパッド)を使うことなく、従来の性能のものが使えれば、異音発生・ブレーキへのクレームが減らせるよね、ということ。また、たまに見るようになった6ポッドキャリパーなんてものも「パッドへの圧力を全体にジワッとかけられる」メリットもあるでしょう。
こうしてみるとホイールの大径化というものは、もちろん見た目もありますが、それ以上に乗員の快適性を上げるということもあるような気がしてきました。ごくごく普通のセダンでも17インチや18インチが普通になってきている昨今、「こんな大きいホイール・タイヤは必要ないよ」と言い続けてきましたが、そういう自動車設計の最適化もあるか、という感じです。


さて、もう一歩話を進めると、今後のブレーキというのはハイブリッドに限らず回生ブレーキというものを使ってくるかもしれません。環境性能や外観の見栄え向上ということでブレーキパッドのカスまでもが問題になればそのカスの発生を抑える方向に行かざるを得ません。つまり運動エネルギーを熱ばかりでなく電気エネルギーに変換する回生ブレーキでパッドの使用領域を減らす、というわけです。もちろん信頼性や耐久性の確保があっての話ですから、すぐに、という訳ではないでしょうけどね。
でも初代プリウスに初めて乗ったときは「回生ブレーキというのはこういうことか」と思わせられましたから、けっこういいアイデアだと思うんだけどな。発生した電気でも、捨ててもいいという前提なら回生効率を考えなくてもいいし。あれ、けっこう率が悪いっていう話も聞きますしね。

今日のところはこの辺で。

0 件のコメント: