2009年5月28日木曜日

プリウスとインサイト

クルマ屋をやっていて不思議なのは、ここまでわかりやすい商品なのにも関わらず、それでも区別のつかない人が大勢いるという事。それはいわゆるOEM商品である日産のモコをはじめとした軽自動車シリーズと供給元であるスズキや三菱といった各メーカの元商品との区別です。

モコはスズキのMRワゴンだし、ピノはアルト、オッティーは三菱のeKワゴンだし、キックスはパジェロジュニアなのですが、意外というかなんというか、一般の方の中には日産が軽を作り始めたと勘違いしている人がかなりの数存在しています。まあ、日産もあれだけ素知らぬ振りしてCMを流しまくっていますから思いどうりの流れなのかもしれませんが。
昨年末に浜松インター直前にある日産のディーラーの前を通りかかったとき、納車準備中であった車はことごとくが「日産製」の軽でした。人ごとではありますが、販売側があんなに安易な方向に走って本体は大丈夫かいな?と思わずにはいられません。販売側は軽を売って糊口をしのぐつもりなんでしょうが、おそらく現場の人間としては「1台は1台」というカウントでしょうからいきおい楽な軽自動車販売に傾きがちになるのは分かりきった流れです。そうなれば、従来ならばなんとか自家用小型車に話を持っていく努力もあったでしょうが、おそらく垣根の取れた今は何の障壁もなく軽自動車の商談に入っていくでしょう。メーカーからすればディーラーは工場の生産ラインスピードを維持していく為の計算の基礎であるはずなんですが、こういう流れになってしまった以上元の鞘に戻すのは至難の業になるでしょうねえ。まあ、ルノー分の生産も混流しているからいいのか?


さて。同様の流れが見られるのがお題のプリウスとインサイトです。
別に自分の古巣がトヨタディーラーであるからといってプリウスを持ち上げるわけではありませんが、特に初代プリウスの登場は自動車史100年余のなかで大きくページを割かれてもいい事柄だったと今でも思っています。

そのプリウスの特徴は、その全ての基本要素が新設計部品で構成されていたことです。世間様的にはハイブリッド車第一号車としての名誉が挙げられるでしょうが、本当にすごい所はボディとエンジンを同時に新規設計で纏め上げたというところにあります。それが自動車会社にとってどれだけ勇気のいる作業であったことか。ハイブリッドシステムの組み込みはかなり後になって決まった話であり、それよりも21世紀基準車としてのボディ骨格設計とエンジンの新規設計のほうがもっと評価されるべきです。
もちろんTHSシステム自体の新規性・独創性をけなすつもりはありません。ほとんど範とするものがない中でエンジンの動力とバッテリーからの動力とを、走行状況や走行環境、バッテリー残量などを総合的に判断しつつ自在にその動力源の比率や混合度合いを配分していくシステムを従来のA/Tとほぼ同サイズにまとめあげ、かつ信頼性を同時に達成している所などはあきれるほど感心する所です。

ただ残念な所はその後で、マイナーチェンジ後や新型(2代目)と後継モデルになればなるほど周りの声に引きずられていき、発進時のアクセルの応答性のよさであったり、加速性能であったり、本来は苦手なはずの高速巡行領域での走行性を求められる、という本来の良さはスポイルされていったように思います。加えて、いつの間にやら「ハイブリッドカー」という枕詞の付いた「究極のエコカー」みたいな扱われ方をされるようになってしまったのですね。
このためトルク性能を重視する為に昇圧回路を使った従来よりも高電圧のモーターを使って高トルクを演出してみたり、あまりに燃費を気にするあまりモーターやバッテリーに負担の多い基本設定となっていたり、燃費の為に空力を気にせざるをえなくなり、二等辺三角形のスタイルから抜けられなくなってしまったりしています。

さて、インサイトです。基本的に今のインサイトは、フィットにIMAシステムのハイブリッド機構を組み込んだもの、というのがその実像でしょう。もともとのインサイトは「燃費データでプリウスに勝ったハイブリッドカー」ということしか売りのない車でした。
初代プリウスは先ほども書いたように「次世代車の基準足りうるボディ設計・骨格を持った車」という部分が本筋でしたから、もちろん空力も大事ではありますが、それ以上に「大人4人がきちんと座ることができ、更にその乗車定員分の荷物も十分に収納可能なボディ」という基本空間を有することを要求されていました。このためもちろんボディは鉄製で乗車定員は5人となっています。
ところがインサイトのターゲットは「プリウスに燃費で勝つ」ことしかありませんでしたから、ボディは重量的に有利なアルミボディで、しかも乗車定員は2人。しかも確かにハイブリッドシステムとはいえエンジンは3気筒の1リットルエンジンに補助モーターをアシストとして使う、といういたってシンプルな構成です。重量的には850~870キロ程度だったようです。これに対してプリウスは1220キロと400キロ弱も重いうえ、更に乗車定員3人分・150キロほど重い状態での計測となる訳ですから燃費競争の比較対象にならないように思います。

このように両者は違っている訳ですが、今回ホンダはインサイトを「200万をきるハイブリッド車」として世に出してきました。個人的には「それ相応に安物のフィットハイブリッド」としか見ていませんでしたが一般的には「安いハイブリッド車」「大人気・初期受注2万台」とか何とか。
それを横目で見た「出てきたライバルはとにかく潰しにかかる」信条のトヨタは、ハイブリッド車としては高級機であるプリウスを「200万ちょっとで買えるハイブリッド車」として世に出してしまいました。聞くところによれば発表直前に40万円ほどいきなり発売価格を下げてきたのだとか。まあ、買う側にすればありがたい話なのですが、売る側(ディーラー)にとってはいきなり儲からない車になってしまったようです(全店舗での扱い車種にもなりましたし)。

個人的にはどちらが売れてもどうでもいい話なのですが、少々寂しいのは「ホンダがあんな所ではっちゃけなければ(初代・二代目インサイト共)」もう少しましなハイブリッド車の方向もあったんじゃないか、と思うとともにせっかく初代が築いたプリウスという車の本質的な良さがどんどんスポイルされてモデルチェンジされていくのは寂しいなあ、というところですねえ。

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