2010年4月21日水曜日

クルマの鍵について

私がディーラーに就職した頃(平成4年)はまだまだ平和な頃でした。

マークⅡといえどもワイヤレスドアロックがあったかないかという端境期にあり、イモビライザーなどの研究はされていたのでしょうけど、市場的には影も形もない頃です。せいぜいセルシオが複製されにくいキーとして、内溝キーを採用しました、というのがトピックになったという程度でしょうか。

鍵の材質そものもの柔らかかったのでしょう。長らく使っていると次第に先端やエッジの部分が削れ、だんだん真鍮色に色が剥げ、いかにも使い込みましたという雰囲気が出てきました。
今の鍵は材質が変わってしまったので、黄変するという事はなくなり、代わりに使い込むほど黒ずんでいくものになりました。

ただ考えてみれば、その使い込んだ鍵であってもキチンと使えていたということは、鍵穴そのものも、ある意味「非常にラフ」に作られていたという見方もできます。つまり鍵の形(オス型)に対して許容範囲が広い。はっきり言っちゃうとピッキング(開錠)しやすい、という事ですね。

もちろん世の中の空気として「そういうことは、やってはいけないこと」としてキチンと認識されていたということの裏返しでもあるわけですが。

鍵というものはそれこそ「追う者と追われる者」の関係で、盗もうとする人間が新たなやり口を開発すれば、鍵の開発者はその裏をかいた手口を考えていく、といういたちごっこです。

ところが悩ましいことに、使う側・クルマの所有者としては、それこそ鍵なんかなくても使えるくらいの方が「使う」という事に関しては至極都合が良いという側面もあるわけです。


それはそれとして、整備する側から見た鍵の側面もあります。


昔は機械式にドアノブとロックピンが連動していたわけです。こういう構造だったからこそ、ドアの中に金属製の平たい棒を差し込んでとある一点をガシャガシャとまさぐると「カシン」とかいう音と共にロックピンがスコンと上がり、目出度くドアが開く、という芸当が可能でした。

これを気に病んだメーカーは、ある時期からロックピンを電気式に切り替えてしまいました。ソレノイド式とか言われる方式です。ところが、この電磁石方式。ロックピンが固着してしまい、ドアが開かなくなるというケースが多発した時期があります。
また、便利装備としてワイヤレスドアロックなる装置がありますが、あまりにも普及してしまった結果、鍵穴のトラブルというものが激減してしまいました。考えてみれば当たり前の話です。だって、鍵穴に鍵を挿す、という行為そのものがなくなってしまったんですから。
このため、現場のメカニックが鍵穴を触ったことがない、という事態が秘かに続き、ある時期を境に「鍵穴の組み換え、オーバーホール作業」という技術が、既に失われてしまったに等しい、まぼろしの技術となってしまった、なんてことも。まあ、いいトコ私と同年代までのメカじゃあないと、こういう作業体験はないはずです。

イモビライザーも食わせ物ですねえ。


ワイヤレスドアロックだけなら、関係者なら誰でも見たことがあるはずの「ドアロックスイッチのオンオフを○回繰り返した後に10秒以内にドアを開け閉めして、その後15秒以内に鍵をイグニッションに挿し、これまたオンオフを数回、しかる後に.....」という鍵からの信号を登録する作業でよかったはずなんですが、イモビはねえ。結局コンピューターに繋いで、本体に覚えさすという儀式が必要になります。


これだけならまだいいのですが、イモビライザー装着車はドアの鍵の開け閉めだけならまだいいんですけど、鍵の紛失の場合、幾らドアが開いた所で「エンジンが掛からない」。つまり、一般のレスキューだけでは対応しきれないんですね。

で、また、複製費用が馬鹿にならないことも頭の痛いところです。

これは日本人ユーザーの悪しき伝統なのかもしれませんが、皆さん中古車としてクルマを手放す際に鍵を全部差し出さない人の割合が異様に多いです。中古車として仕入れをする際に、鍵がマスターの1本しかない例が非常に多いんですね。

まだマスターキーなら良いほうで、サブキーだけとか。中には後から市販のブランクキーで複製しただけの1本とか。
今時の新車では、マスターキーのほかにサブキー、グローブボックスには使えないポーター用のキーなどとかで3本以上付いてくることがほとんどです。その他に、キーの溝を符号化した番号を刻印したプレートですとか。
セルシオなんかだと、クレジットカードに一回だけ使える程度の鍵だけ刻み込んだ「カードキー」なるものも付いていましたねえ。GT-Rなんかも専用のキーでしたから、みんな記念に持っているんだろうけど、持っていたってゴミでしかないんですし、次のユーザーが迷惑をするだけですから、キチンと受け渡してもらいたいものです。

ちなみに私のロードスターは市販のブランクキーで複製したサブキー1本しか付いていませんでした。ベンツはマスターキーのみ。キープレートがインサートされていないサブキーがあるはずなんですけどね。アイもスマートキーユニットが一つだけでした。これは2つ付いてくるはずなんだけどねえ。唯一まともっぽいのがルポ。マスターキーにサブキー。それからキー番号のプレートと、エマージェンシーのプラキーが前オーナーから渡されました。


せめてこれくらい、次に使う人のためにキチンと受け渡して欲しいものです。




というわけで、今日はカギにまつわるお話のあれこれでした。

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